アパート建て替えのポイントとメリット・デメリット、竣工までの流れ
経営するアパートが古くなってくると、リフォームすべきか、それとも建て替えすべきか迷います。このまま子供に相続していいものかどうか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
じつは、アパートには建て替え時期の目安があります。工期や費用も目安があって、建て替えが有望な投資になるかどうかの判断材料になります。
本記事ではアパートの建て替えに関する基礎知識とメリット・デメリット、建て替えの流れをご紹介します。アパートの建て替えを迷われている方は、参考にしてください。
アパートの建て替えに関する基礎知識
さっそくアパート建て替えの基礎知識から解説していきます。建て替えを検討するタイミングや、建て替え工事の費用をお伝えしていきましょう。
アパートの建て替えを検討するポイント
アパートの建て替えを検討するポイントは3つ(築年数、空室率、投資効果)あります。順番に説明していきましょう。
築年数
目安として、築年数30年を超えている場合は建て替えを検討し始めるとよいでしょう。築30年が経過すると、おおよそ以下の3つに当てはまります。
- 法定耐用年数を超えている
- アパートローンの返済が終わっている
- ニーズがなくなり空室が埋まりにくくなっている
木造アパートや一部の金属造アパートは、築後30年建つと法定耐用年数オーバーでキャッシュフローが悪化します。ですから、キャッシュフローを改善するため建て替えがひとつの選択肢になります。
「法定耐用年数」とは、税務上の耐用年数で建物の寿命ではありません。事業で使う固定資産を減価償却する期間で、銀行が最長融資期間を決める重要な要素になっています。
建物の構造ごとの耐用年数は、以下の通りです。
構造 | 法定耐用年数 |
木骨モルタル造 | 20年 |
木造 | 22年 |
金属造 | |
3㎜以下のもの | 22年 |
3㎜を超え、4㎜以下のもの | 30年 |
4㎜を超えるもの | 38年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
アパートローンの借入期間の上限は法定耐用年数以下になっていることが多く、30年経つと完済している方もいます。次の融資を受けやすい時期というのも、建て替えの後押しになります。
また30年前に建ったアパートは、建材の老朽化が進んでいるので頻繁に修繕が必要になります。新耐震基準(1981年)以前に建った物件であれば耐震性が低く、地震や災害による倒壊も心配です。
リフォームで内装がきれいになったとしても、部屋が和室だったり外観が古かったりすると空室は埋まりにくいままでしょう。家賃を下げるにも限界があり、リフォーム(投資)に対するリターンを考えると建て替えを検討すべき時期と言えます。
空室率
アパートは古くなると空室が増え、賃料を下げざるを得なくなります。そうすると「運用利益の低下、売却価格の低下、賃借人の質の低下」の3つの「低下」を招くことになります。
下げた家賃は、再度上げるのが難しいでしょう。ですが、建て替えは家賃を上げるきっかけになります。空室率が5割を超えたら、家賃を下げて入居者を募集するより建て替えの検討と準備を始めたほうがいいでしょう。
入居者の人数が多いと多額の立ち退き料が必要になりますが、入居率5割を切ったら入居者の自然減を待ち、立ち退き交渉を最小限におさえられます。空室率が8割程度になったら、本格的に行動を開始しましょう。
投資対効果
リフォームがいいのか建て替えがいいのか悩んだら、リフォームによって入居者が増えるか検討してみましょう。さらに、長期的に見てリフォームが「有望な投資」になるか試算してみましょう。
たとえばリフォームに50万円投じて家賃を月々3,000円(年間3.6万円)アップした場合、リフォームの利回りは7.2%です。このケースでは、回収に14年近くかかってしまいます。
築年数が古いアパートに対して、回収に長期間かかるリフォームは不適切です。繰り返し修繕費用がかかる状態なら、なおさら建て替えを検討したほうが「有望な投資」と言えるのではないでしょうか。
アパートの建て替え工事に必要な費用
つづいて、アパートの建て替え費用について解説します。
アパートを建て替えるときは「解体工事」と「新築工事」の2つの費用が必要です。順番に詳しく説明していきましょう。
解体工事の費用
解体工事では「足場・養生費、解体費、家屋内にある荷物の処分費、必要書類の届出代行費」の4つの費用がかかります。
解体費用は、建物の構造の種類によって相場が異なります。一般的には、木造や鉄骨造より鉄筋コンクリート造のほうが高くなります。
- 木造・軽量鉄骨造 ⇒ 坪2.5~4万円程度
- 鉄筋コンクリート造 ⇒ 坪3.5~8万円程度
なお、解体工事費用は前面道路の広さや交通量、階高、施工業者の作業効率の影響を受けます。費用は利回りに直結するので、必ず複数社から見積もりを取って比較検討しましょう。
解体工事費用の相場については、こちらでも解説しています。詳しく知りたい方は、ご覧ください。
新築工事の費用
新築アパートの工事では、建築工事費用以外に付帯工事や諸費用がかかります。代表的な費用項目をあげてみましょう。
- 設計費・申請費
- 造成工事費
- 基礎工事費
- 建築費
- 電設工事費
- インテリアの設置費
- エクステリア(外構)工事費
- ローン保証料
- 火災保険料
- 登記費用
建築工事費は建築地域や使う建材、仕様などの影響を受け上下します。建築会社によっても建築費が大きく変わるので、解体工事と同様に相見積もりで比較検討することが大切です。
なお、国土交通省の建築着工統計調査(2019年)によると、共同住宅の工事費の全国平均は以下のよになっています(平米単価を坪単価に換算)。
構造 | 工事費の坪単価 |
木造 | 56.1万円/坪 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 79.2万円/坪 |
鉄筋コンクリート造 | 102.3万円/坪 |
鉄骨造 | 75.9万円/坪 |
アパート建て替えのメリット・デメリット
アパートを建て替えるうえで気になるのが、メリットとデメリットではないでしょうか。現状維持やリフォームと比べてどんな利点や欠点があるのか、順番にご紹介しましょう。
メリット
アパートを建て替えるメリットは、主に次の3つです。
- 希望する設計の建築物に建て替えることができる
- キャッシュフローを改善できる
- 空室対策費用が減る
建て替え後に一番大きく変わるのが、外観や内装です。現在のトレンドに適したデザインや間取り、住宅設備に変更でき物件の魅力が向上します。
また、減価償却が終わって所得税が増えた物件を建て替えると、再び減価償却費を計上できるようになり、キャッシュフローが改善します。賃料収入の増加も、期待できます。
一般的に古いアパートほど空室率が上がる傾向にあるので、建て替えることで空室率や収益性の改善も期待できます。それにともないリフォーム費用や入居者募集費用、仲介手数料も減らせます。
デメリット
アパートを建て替えるデメリットは、主に次の3つです。
- 多額の建て替え費用が発生する
- リフォームするよりも工期がかかる
- 入居者への立ち退き依頼や交渉が必要
建て替えは、リフォームより工事費用がかかります。さらに、家賃収入を得ることができない工事期間も、リフォームより長くなります。
立ち退きの申し入れは、管理会社がやるのは非弁行為になるのでよくありません。原則自分でやるか、弁護士に代理人になって実行してもらう必要があります。
このように建て替えは費用と手間がかかるので、リフォームや現状維持と比べてどちらが合理的かよく検討することが大切です。
アパート建て替えの流れ
最後に、アパート建て替えの流れを5ステップで解説します。
実際には施工会社や不動産会社の担当者が順次やるべきことを指示してくれますが、覚えておくとよりスムーズに進むでしょう。
●STEP1:建て替えるアパートの選定
まずは、アパートのプランや資金計画からスタートします。立ち退き料や解体費用を考慮したうえで支払い可能な建築費用を試算し、適切なプランを選定しましょう。
プラン図面と見積もりは、複数の建築会社に依頼して比較検討するとよいでしょう。1社だけに相談すると最適なプランかどうか検討できないうえ、価格交渉もしにくくなります。
●STEP2:立ち退きの依頼・交渉
契約を更新しない旨は、遅くとも期間満了の6ヶ月以上前までに借家人に対し通知しなければなりません(借地借家法第26条)。また「正当事由があると認められる場合」を除いて借家人は退去を拒否することもできます(借地借家法第28条)。
このように、借地借家法は借家人を保護するスタンスで作られているので、争いや裁判になるとアパート経営者側が不利です。もめないように最大限注意して、話し合いを進めましょう。
まんがいち立ち退き交渉が長引きそうなときは、空室部分の定期借家契約(契約期間に定めがある借家契約)も検討するといいでしょう。
なお、借家人が立ち退くときには引っ越し代や引っ越し先の敷金・礼金、仲介手数料などの移転コストがかかります。交渉しだいでは「家賃6カ月~1年分」程度の立ち退き料を支払うケースもあるので、覚えておきましょう。
●STEP3:解体工事の実施
解体工事前に、解体業者に近隣挨拶回りをしてもらいましょう。可能であれば、家主も一緒に回るとよいです。これをするだけで、近隣とトラブルになる可能性が下がります。
解体業者には、解体工事の質だけでなく周辺への影響を最小限にする能力も求められます。しかし、騒音や粉塵はさけられないので、近隣への説明(挨拶)が大切になります。
住宅の解体は産業廃棄物の処理をともなうので、法令遵守意識が高く、似たような物件の解体実績が豊富な業者に依頼するのが安心です。
ガス管・水道管・電線・電話線の処理も、忘れず事前に済ませておきましょう。
●STEP4:新築の着工
新築工事も、近隣挨拶が大切です。その際に工事内容の説明を求められることがあるので、施工会社と一緒に回るとよいでしょう。
工事開始前の地鎮祭に関しては、される方が徐々に減ってきている印象です。地鎮祭をおこなう場合は、寺社に初穂料を納めて祝詞を奏上してもらいます。
着工前に、工事費の支払いタイミングも確認しておきましょう。建築工事では、2~3回にわけて支払うのが一般的です。その一例をご紹介しましょう。
名称(支払いタイミング) | 支払額 |
着工金(着工時) | 工事費の1/3 |
中間金(屋根や外壁ができた時) | 工事費の1/3 |
清算(引き渡し時) | 工事費の1/3 |
着工したら、設計図面どおりに造られているか、スケジュールどおりに進んでいるか、定期的に確認します。気づいたことや不安なことがあったら、すぐに担当者に伝えましょう。
あわせて、入居者の募集状況も確認しておくとよいでしょう。
なお、工事現場は危険をともなうので、勝手に入ってはいけません。施工会社に連絡のうえ、担当者と一緒に入るようにしましょう。
●STEP5:新築の竣工
アパートの工期目安は「階数+1か月」と言われています。ただし、これはかなりスムーズにいった場合で、地盤改良や外構工事のことも勘案するとさらに「+1~3か月」程度は余裕を見ておきたいところです。
建物が完成したら、大家による竣工検査をおこないます。以下に注意して、問題がないかよくチェックしましょう。
- 図面どおり仕上がっているか
- 追加で依頼した工事が完了しているか
- 風呂やトイレなど住宅設備はちゃんと使えるか
- 内装にキズや汚れはないか
問題が改善するまで、引き渡しや支払いを済ませてはいけません。全て問題ないことが確認できたら、引き渡しと同時に残金の清算をおこないます。
引き渡し日は、清算以外に登記もおこないます。全て同時に処理するので、施工会社や銀行、書士との連携が大切です。しっかりコミュニケーションを取っておきましょう。
アパート建て替えのポイント、メリット・デメリット、工事の流れまとめ
老朽化したアパートは空室率が上がりやすく、いずれリフォームや賃料の引き下げでは改善できなくなります。賃貸経営を続けるのであれば、そうなる前に建て替えを検討し始めましょう。
築年数が30年を越えるようなアパートであれば、建て替えることで建物が新しくなるだけでなく、キャッシュフローの改善も期待できます。修繕や入居者募集に費やしていた費用も、下げられるでしょう。
ただし、建て替えには高額の費用と工期がかかり、コストアップすればするほど利回りが悪化します。建築や解体工事は必ず複数社から見積もりを取り、比較検討して施工業者を決定しましょう。
都道府県別に解体工事会社と解体費用相場を見る
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